「リチャード・ジュエル」感想 偏見なんてしてない。そう信じる人こそ、偏見を持っていることにさえ気づかない。

「リチャード・ジュエル」(字幕)

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爆弾を発見し、人々の命を救った英雄。

しかし真実は捻じ曲げられ、彼は避難の的に。

 

1人の男の小さな勇気を、なぜ世論は批判したのか。人間だからこそ起こってしまった、最悪の英雄譚。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1人の男の小さな勇気

法執行官に憧れるリチャードは、警備業務中に不審な荷物を見つける。彼は荷物について報告し、中身が爆弾だったとわかると避難誘導にも尽力した。そんな彼の、小さな勇気が讃えられ、新聞各社は彼を”英雄”と呼ぶように。街ですれ違うと道すがら賞賛されるようになるほど有名人になったリチャード。彼の勇気で、何百という人の命が救われたのです。

しかし、そんな英雄に物申したのが、FBI。そしてそれは流出し新聞の記事になってしまうと、一転して彼は犯罪者として世の中から見られることになってしまう。

扇動的に世論を動かしてしまったばかりに、もう新聞各社もFBIも引っ込みが効かなくなってくる。もう証拠が有る無いとか、そもそもリチャードがやったのかやってないのかの真実なんてどうでも良く、リチャードの外見や生い立ちという表面的な部分から犯人にまくし立てていく。

 

 

 

法執行官に敬意を

FBIのめちゃくちゃな捜査により、部屋のあらゆる物が押収され、不当な捜査を強要されるように。パニックになる母親、怒る弁護士ワトソン。しかし当のリチャードは、あろうことか捜査に協力的だったり、荷物を運ぶのを手伝ったりしてしまう。ベラベラ要らないことまで話すし、音声証拠まで提供してしまう。

このリチャードの行動に、正直応援していた気持ちが離れていくんですよね。ワトソンたちと同じように、こっちはお前を守ろうとしてるのになんで相手に協力してるの?って。でもよくよく考えると、リチャードの行動って凄く人間的だと思うんです。もし街で、警察官に呼び止められて、捜査に協力してほしいとか言われたりしたら、あなたはどうしますか?大抵の人は、快く警察官の質問に答えると思う。笑顔でしっかりと応答すること、敬意を払うことで”自分は普通の人です”とアピールしてるんです。リチャードも、自分にとっての正義、信念を貫くための目標だった彼らに対して敬意をはらい、協力することで”自分もまた法に準ずる立場なんだ”とアピールしている。彼は自分が犯人じゃ無いという自信が有るからこそ、それをアピールするために彼らに協力している。

 

 

  

偏見

FBIになぜ敬意を払うのか、怒ってないのか?という質問に対する彼の激白を聞いて、ワトソンも観客もハッとさせられる。正直、こいつバカなんじゃないの?とさえ思っていた僕達こそ、彼を表面的にしか見ていない、偏見を持っていたんだと気づかされる。世論がリチャードを外見やら生い立ちだけで犯人に仕立て上げるのを見て憤慨していた僕らでさえ、情報を制限され、1つの側面からしかリチャードを見ていなかったら小馬鹿にしていたじゃないか。

この映画は、まさに偏った見方をしてしまう、偏見ができる過程を映画内でやってのけている。

 

 

 

 

正義を貫く者

そんな偏見と戦い、リチャードは遂に”あの事件で自分が死んでいればよかったのに”と夢に見るまで追い込まれていく。しかし彼は、それでもなおワトソンと共に戦い続けた。

そして最後に、リチャードはFBIに物申す。彼がなぜ、ここまで戦ってきたのかを。彼のように、小さな勇気を振り絞って人々を守ろうとする人が現れた時、”リチャードの二の舞になるからやめよう”と思わさせないように、小さな勇気をこそ守るために、リチャードは戦っていた。正義を貫くために、リチャードは自分が信じてきた法執行官と戦ってきた。そしてそんな、小さな勇気を振り絞った人々こそリチャードであり、ワトソンであり、友人であり、母親。彼を守ろうとした数少ない人々を守るためにリチャードは戦っていた。

正義を貫くことに一直線に突き進む彼の姿を、捻じ曲げて伝えてしまったメディア。そしてそれに加担してしまったFBI。この2つが本当にするべきことは、人々の小さな勇気を奮い立たせることだった。人々から、信頼、正義を託されているからこそ、もう二度とこのような過ちを繰り返して欲しくない、と痛烈に感じる作品でした。

 

 

 

 

 

 

--『映画といきもの』--英雄ネズミ

本作では、第一発見者であるリチャード・ジュエルが”英雄”から”犯人”に仕立て上げられてしまった。

同じくアフリカに、”英雄”と呼ばれるネズミがいる。その名前はアフリカオニネズミ。アフリカには複数の地雷原が存在している。このネズミは、そんな地雷のTNT火薬の匂いを嗅ぎ分けることができ、さらに体重が軽いので地雷が感知せず、そしてアフリカにある資源で育てることができる天然の地雷発見機として活躍している。さらにさらにこのネズミは、人の唾液から結核菌を検出することも出来、アフリカでは多くの人の命を救った”英雄”とされている。

同じく人々の命を救った”英雄”なのに、人間であるから故にあらぬ疑惑を突きつけられ、どん底まで落とされてしまったリチャード。人間はもっと単純に、純粋に、彼の英雄的行動を讃え、真実をこそ伝えられるように、そして真実を見分けられるようになっていかなくてはいけない。思慮深く考えることこそ、人間に与えられた進化なんですから。

 

 

 

最後に

リチャード視点での感想になってしまいましたが、新聞記者が自分のやってしまったことに気づく視点など、あらゆる視点を通して”正義”を見ることができるのも本作の魅力でした。

是非映画館で、1人の男の小さな勇気を刮目して見てください。