「映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争2021」感想 今回も的確なアレンジが光る大傑作!

「映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争2021」

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武田鉄矢の「少年期」が印象的な1985年公開のドラえもん のび太の宇宙小戦争」をリメイクした本作は、元々は2021年公開予定だったが、新型コロナ感染拡大により1年延期して公開された。

 

 

 

 

感想

 

 

 

 

 

宇宙小戦争

そもそも本作の原作であるドラえもん のび太の宇宙小戦争」SF映画のパロディが多く、1985年の映画版ではオープニングから名作SF映画の数々がパロディされている。スターウォーズガリバー旅行記キングコングからインスパイアを受けており、ドラえもんがハリウッド映画に飛び出したような楽しさがあるのが特徴な作品だ。

本作で描かれるのは独裁者からの解放を目論む反乱軍のお話で、まさにスターウォーズ的なストーリーになっている。そんなストーリーに小学生であるのび太達が飛び込むことで生まれる”いつ大人になるのかというテーマは、数あるドラえもん映画でも本作を指折りの泣ける作品へと押し上げている。

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リメイク作品

そんな原作を基にリメイクされた「映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争2021」

ドラえもん映画は、同様に長寿的に続いている他のアニメ映画シリーズとは少し違い、リメイクと新作を(大体)交互に公開するという、よくよく考えるとちょっと変わった構造のシリーズになっている。そしてリメイク作品は既に一定数、作品にファンが付いているため、旧版をどのように描き直すのかがどうしても注目されるポイントになってくる。名作であればあるほど、ストレートな焼き直しではなく一工夫も二工夫も必要になってくるのだ。

そして本作はリメイク作では前作にあたる「新日本誕生(2016)」と同様に、原作が持つ魅力のアップデート、取捨選択による見やすさの向上、大胆なアレンジによるテーマの見直し等がことごとく成功した理想のリメイク作だった。

 

 

 

 

スケールの演出

本作の魅力の1つは、小さくなったり大きくなったりするサイズ違いの面白さだ。特撮という”小さいものを大きく見せる”面白さをこれでもかと描く冒頭から、小さな宇宙人パピとの対話、小さい世界のワクワク、そして大きくなった爽快感。

本作では、アニメだからこそできるスケール間の対比をこれでもかと演出していることで映画館でこそ見栄えする映画作品になっている。パピがのび太達を見上げる構図、逆にのび太達がパピを見下げる構図、そしてスモールライトで同じサイズになる目線...どれも子供の目にも楽しいよう工夫がされていた。その中でも特筆したいのが、しずかちゃんの描写である。原作でも、ラストの巨大化のコマは掲載時に3回も先生が描き直しており拘りが見えてくるが、本作でも特にしずかちゃんの描写には気合が入っている。(パピから見た巨大しずかちゃんは子供の性癖を歪めちゃうんじゃないだろうかと思うほどw)

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もう1つ、本作の魅力であるSF的な戦闘シーンは、ラジコン戦車が飛行モードに切り替わったり多弾頭ビームが打てるようになったりと、旧版よりも遥かに派手で戦々恐々とした描写にアップデートされている。DolbyやTHXでの上映がされているのも納得なほど、音響、演出共にドラえもん映画の中でも随一の戦闘シーンが発揮されている。

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的確なアレンジ

リメイクでアップデートされたのはこれだけではない。

序盤、スネ夫たちが特撮短編映画を撮影している場面と裏山でのび太達が人形短編映画を撮影する場面を一本化することで話運びをタイトにしていたりと、今回のリメイクはかなりテンポアップがされている。

しかし上映時間は旧版の96分に対してリメイク版は108分と長くなっている。では何が追加されたのか、という話になると思うが、大きく分けて4つのシーケンスが追加、変更されているのだ。

 

1つ目は中盤、しずかちゃんがPCIAに拉致されてしまいPCIAとの交渉に向かうパピのシーン。ここで旧版だとしずかちゃんと引き換えにパピが捕まってしまうが、リメイクではしずかちゃん、パピ共に脱出に成功する。これによりピリカ星に向かう一同にパピが加えられ、のび太スネ夫とパピの交流シーンが追加されているのだが、ここで特にスネ夫の心情がより深堀りされ、終盤の展開の説得力にも繋がるアップデートになっている。

 

2つ目は終盤、PCIAの総攻撃を受けることになる自由同盟の基地でのスネ夫の葛藤シーン(ここは細かいところだが)。慌ただしく戦闘モードに移行する自由同盟軍の中、しれっと一人姿を消すスネ夫。そんなスネ夫を探しに来たしずかちゃんは、スネ夫の靴を見つけ、倉庫に隠れていたスネ夫を説得する。このシーン、旧版ではそのまましずかちゃんが倉庫に入るところを、リメイクではわざわざしずかちゃんにスネ夫の落とした靴を持たせ、説得の後に立ち去る際にはスネ夫の目の前に靴を置いていくという演出が加えられている。

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原作からあるセリフで、しずかちゃんの「このまま独裁者に負けちゃうなんて、あんまりにも惨めじゃない!やるだけのこと、やるしかないわ」というセリフこそがこの作品のテーマであると脚本の佐藤大さんがおっしゃる通り、後述するが「少年期」からも”いつ大人になるのか”がテーマだった旧版に対して、本作では明らかにそこから一歩進んだテーマになっている。そしてこのシーンはまさに、セリフではなく絵だけでスネ夫に”一歩前に出る”ことを促すシーンになっている。

 

 

3つ目は終盤、ピリカ星でドラえもん一同が捕まってしまうシーン。旧版では自由同盟軍の地下組織であえなく捕まってしまい処刑シーンに移っていたのが、リメイクではそこから脱出し、PCIAの基地でドラえもん達は捕まるがのび太は脱出に成功するという展開に。

 

ここの脱出シーンも最高だが、たった一人で逃げ出したのび太は、どこで何をすればいいのかわからずうずくまってしまう。そしてふと道路を見るとドラえもん達を輸送中のトラックとすれ違う。のび太の被った いしころぼうし でドラえもんからはのび太が見えておらずのび太を心配する気持ちと、のび太が意を決しドラえもん達を助けに行こうと再度奮起するという感情がこのシーン一発で描かれている。終盤に向けて、ここから映画的にも熱量が一気に上がる最高のアップデートシーンになっているのだ。

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4つ目はパピの演説シーンの追加。ここをもって現在のウクライナ情勢と絡めて感想を言う人が多くいるが、1年前に公開予定だった本作にはもちろん、このシーンも既に入っていたはず。ドラえもん映画ではかなりハードに戦争が描かれるこの「宇宙小戦争」で、戦争が生み出す悲劇と戦うための普遍的なテーマがここで語られる。ピリカ星の大統領として周りを巻き込まずに物事を解決しようとするパピが、仲間との友情を経たことで説く”相手を思いやる気持ち”は、現在の情勢に限らず、普遍的なメッセージとして子供達にもわかりやすく伝えている、このシーンは、まさに”映画ドラえもん的な名シーンになった。さらに「宇宙小戦争」が抱える問題点として、偶然サイズが元に戻って解決!という安易なオチを強調せず、市民が立ち上がり圧政を打破することで解決するという面のほうを強調することにも成功している。

 

 

 

 

最後に

なっがながと語ってきましたが、今回のドラえもん映画新作は子供が見ても大人が見てもストレートに楽しめる最良のリメイク作品に仕上がっていたと思います。是非映画館で、お子さんや友達と一緒に楽しんでください。ではまた、どこかで。

画像引用:YouTube DoraemonTheMovieチャンネルより『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021』新予告【2022年3月4日(金)公開】

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