「藁にもすがる獣たち」感想 1つのバッグに7人の男女。不謹慎な笑い渦巻く見事な群像劇。

「藁にもすがる獣たち」

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あらすじ

ある銭湯で1つのバッグが見つかる。その中には、5億ウォン(約5千万円)が入っていた。母の世話に悩む男、DVに苦しむ女、借金に追われる男……。金という欲に駆られた獣たちによる死闘が始まる。

予告

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獣たち

群像劇スタイルのこの映画、まずはそれぞれのキャラクターが最高に面白いんです。認知症の母の世話と細い仕事に悩む男、水商売をしながら夫のDVに苦しむ女、失踪した恋人の借金に追われる役人の男。特に第1章では、三者三様に”金が欲しい”という共通点はあれどそれぞれ見た目も性格もバラバラな登場人物たちを観ているだけで楽しいんですよね。

そんな彼らを追い詰めるより濃いキャラクターたちは登場するたびに映画全体をグラグラと揺らしていく。この映画は登場人物が多すぎて取っ散らかることがよくある群像劇という難しいジャンルの特性を上手く利用し、別のキャラクターが出れば出るほど面白さが加速していくんです。認知症のスンジャ、不法入国者のジンテ、ヤバい男パク社長など濃いメンツが多い中、最も印象的なのはテヨンの元恋人ヨンヒなんですよね。物語の鍵を握るキャラクターであるのはもちろん、彼女は年をとった女性の色気とタバコが似合う女性でありその姿は「パルプフィクション」でユマサーマンが演じたミアのような魅力が溢れている。タバコを吸う女性が大好きな私の性癖にとってこのヨンヒは、まさにどストライクな人物でした。顛末含め彼女から目が離せなくなる作品なのは間違いなし!

 

 

不謹慎な笑い

そんな個性たっぷりなキャラクターが登場する本作は、一見すると韓国映画特有のエクストリームな残虐描写やノワール感満載のように思えるんです。しかしこの映画、そういう残虐な描写はほとんど直接的には見せないんですよね。

本作は興ざめするような残虐描写を避けて、連鎖的に起こる人の死を不謹慎な笑いとして扱っている。特に終盤の連鎖的に人が倒れていく様は、「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」のラストのような爽快感と笑いを提供してくれていて、まさしくそういう不謹慎でブラックなユーモアたっぷりな作品なんです。何か取り返しのつかないことが目の前で起こってしまって登場人物が「あ、やっべ…」と間を取る瞬間の妙こそこの映画の白眉。

 

 

 

起承転結

そんな不謹慎な笑いを加速させるのがパルプフィクション」を思わせるような時系列をバラバラにした独特の構成。と言っても本作はしっかりと整理された時系列の分解をしているんですよね。

時系列こそバラバラですが、その本質は

①金が欲しい

②金を見つけた

③金を隠す

④金が見つかってしまう

の起承転結を並べている。群像劇で何度も同じ起承転結を見せられることでより一層、笑い用語でいう天丼的な笑いが雪だるま式に増していく作りになっているんです。群像劇を見事に整理した脚本は、初監督作とは思えないほど刺激的で面白い。

 

 

 

 

最後に

昨年公開の三池崇史監督作「初恋」のようなスタイルが好きな方には持ってこいの映画作品でした。(つまり大好物)

是非映画館で不謹慎な笑いを楽しんでください。