「ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密」感想 どんな嘘つきをも騙す、究極の”騙し方”とは!?

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豪華絢爛なキャストにセット。

優雅で上品な世界観に、下劣で性格の悪いコメディが加わることで起きる化学反応は、今まで見たことがない反応を引き起こしていく。

 

ジェットコースターのように面白い、痛快名探偵映画!!

 

 

 

 

 

 


豪華で優雅な探偵モノ

ダニエル・クレイグ演じる名探偵ブノワ・ブラン。脇を固める名優たち。そしてとんでもない豪邸に、超豪華な内装、衣装…。そしてこれらを聞いてまず浮かぶのが「オリエント急行殺人事件」でありアガサクリスティーですが、この映画はまず豪華で優雅な探偵モノとして面白い。スーツを着て紳士的に振る舞う探偵。そんな探偵に振り回される警察。人が死んでるのに優雅に過ごす怪しい貴族。そして悲劇のヒロイン。この、ベタとも言える名探偵モノのお約束を、この映画はじっくり楽しませてくれる。さらに本作は、そんな豪華な見た目に反して例えるなら「ナイスガイズ!」のような、性格の悪いギャグセンスからなるコメディ演出が加わっている。この、一見真逆とも思える2つの融合が、見たことあるのに見たことない最高に楽しい探偵モノを誕生させている。

 

 

 

 

 

ミステリー?サスペンス?スリラー?

事件の真相を追いかけるため、当然この映画はミステリー映画の定石通り容疑者たちの事情聴取を始める。登場人物たちの小さな嘘が出始め、少しずつミステリーとして前に進み出した矢先、今作のヒロインであるマルタの回想により犯人が明らかになったことで、この映画はガラッとジャンルが変わってしまう。さらにここで観客の誰もが、ここからはミステリーではなくサスペンスとしてこの映画を楽しむんだと思い込まされる。しかしこの映画は、ミステリーでもサスペンスでもない方向に進んでいく。
中盤から本作は、マルタが如何に犯人と気付かれないか、というスリラーに変わっていく。というより、嘘がつけないマルタがハーランの善意を無駄にしないために、探偵ブランの監視下で足跡だったりビデオテープだったり木片だったり…という証拠をどうやって隠すのか…というスリラーコメディへと本作は変身する。
このジャンル変身が本当に見事で、この映画はミステリーの弱点をジャンルを変えることで上手く隠している。ミステリーは、起こった事件についての謎を追いかける面白さがある反面、過去を振り返るからどうしても数人の容疑者たちの話をたくさん聞くことになる。今作で言えば、冒頭の長女リンダの会社経営の話に長女の夫リチャードの浮気話にその息子ランサムと家族との確執の話、長男の妻ジョニの金の話にその娘メグとマルタの話、次男ウォルトの出版に関する話にヒステリックに怒る妻ドナにその息子ジェイコブの思春期話……もうね、書くだけで疲れるぐらい情報量が多くなってしまう。そこに、キャラクターの名前と家族構成を理解する作業まで加わるから、ミステリーはどうしても“話を聞く”パートが長くなりがち。大体のミステリーは、キャラに愛着もない冒頭からこの過剰な情報量を観客に与えてしまい、さらにその情報の真偽を問うためにさらに会話が続いていく…。ミステリーは、2時間という尺できっちり納めるのには向いているジャンルだけど、絵を映すという映画特有の性質とは不向きなんです。小説みたいにページを戻ったりもできないし。しかし本作は、そのミステリーの弱点を逆手にとっている。冒頭から過剰な情報を観客に詰め込んだ後で、この映画はズバっとその情報を捏ねくり回すことを放棄してしまう。“情報から推理する“というプロセス自体を放り投げることで、観客は過剰な情報を摂取しなくて済むようになる。

 

 

 

 

 


ドーナツの穴

じゃあこの映画は単純にスリラー映画なのか。いいえ、この映画はしっかり探偵モノでありミステリーなんです。
冒頭から探偵ブランを軸に推理をしている視点から中盤でマルタが犯人とバレないようにする視点に移行した本作は、後半から再び探偵ブランによる推理視点に戻ってくる。スリラーとして少しずつ提供されていた情報を使って、ブランが真犯人を突き詰めていく。この映画は、ジャンルを切り替えることで視点を上手く引き離して、マルタ視点で見たら疑わしくないのに、いざブラン視点に戻ってみると穴があるように見えてくる。見る角度を変えることで別のことが見えてくるという、まさに名探偵の推理のような見方を観客に浴びせることで、まるで自分が名探偵として推理しているような快感を観客に味あわせてくれる。

 

 

 

 

 


究極の善意

この映画で名探偵ブラン並みに、もしかするとそれ以上に輝いていたのがヒロインのマルタ。彼女は故意ではない出来事で犯人になってしまうけど、性質上“嘘をつかない”し、自分の立場を顧みずに人を助ける。そんな、とびきりの善意が彼女の魅力であり武器にもなっている。
本作に登場する容疑者たちは、誰も彼も嘘ばっかり。それは浮気だったり、遺産だったり、はたまた彼女に罪を被せるためだったり…と様々ですが、その嘘つきたちは最後には騙されてしまう。
究極の善意は、嘘よりも人を騙す。
善意の塊のような彼女が、善意によって嘘つきたちに勝つからこそ、鑑賞中も鑑賞後も本当に心地良い映画体験になっている。

 

 

 

 


お世話してあげてたのに!

そんな本作の真のテーマは、アメリカ合衆国と移民。
わかりやすく移民問題を話すシーンもあったりとかなり露骨なんですけど、映画を見ていくと段々、この刃の館こそがアメリカ合衆国なんだと気づく。刃の館にやってきた余所者のマルタに何度も“お世話してあげている”と上から目線で物言うスロンビー家の人々。でもそういうスロンビー家の人々は父親(orおじいちゃん)にお金や才能を集るだけの奴らだし、一方でマルタは人間らしく献身的に努力し続けていた。どちらが本当に館のためになっているのかを考えると一目瞭然。そもそも館自体、他人から買ったものだし…。

この映画は、アメリカ合衆国という大きな館の次世代を、誰が担うべきかを教えてくれる。

 

 

 

 

 


--『映画といきもの』--俳優シェパード

スロンビー家には、2匹のシェパードがいました。この2匹は最後の謎解きにも重要な役割を持っていましたが、シェパードがアカデミー主演男優賞を取るかもしれなかったことはご存知でしょうか。
1921年に、ストロングハートというシェパードが映画デビューを果たしました。ストロングハートはとんでもない人気となり、映画の俳優犬というものの地位を一気に押し上げました。そんな中、ストロングハートの後継を狙うリンチンチンが1923年にデビューしました。リンチンチンはそれから約9年、映画作品だけで30作に登場する超人気俳優犬になり、アメリカ国内でのシェパードブームに火をつけ、経営難だったワーナーブラザーズを立て直した立役者にもなりました。そんなブーム真っ只中の1929年、最初のアカデミー賞における主演男優賞で最も投票された俳優だった、という噂があります。賞自体はドイツの(人間の)俳優エミールヤニングスが取りましたが、この噂については投票のやり直しがあったなど様々なものがあります。
それから時を超え、第92回を迎えるアカデミー賞。近年でもアギーという犬がノミネートを騒がれましたが、未だに犬が俳優賞を取ったことはありません。白人至上主義が騒がれ、皮肉られる昨今。犬が、ついに俳優賞を受賞する日も近いかも…!?

 

 

 

 

 

最後に

この映画、冒頭にも上げましたが「ナイスガイズ!」みたいに、もっともっと探偵ブランの活躍が見たくなる作品でした。ぜひ色んな事件に遭遇するブランを見せてくださいライアンジョンソン!!頼んだ!!
是非映画館で、ジェットコースターのようにジャンルが変わる本作を楽しんでください!パンフもおしゃれで内容も濃いのでオススメ!