「スペシャルアクターズ」感想 上田慎一郎監督は観客の”違和感”を操る魔術師だ!

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カメ止めの大ヒット。

その次回作である本作に寄せられる期待、そして不安。

しかし本作はそんなアンニュイな気持ちを吹っ飛ばす、全身全霊自ら体当たりしているような、上田慎一郎監督の魅力たっぷりな快作だった!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

小さな映画館

今回、はじめて神戸国際松竹という映画館に行ったんです。そこは見上げるタイプの、新しい綺麗とは言えない映画館。でも、それが似合う映画もあるんです。

そして本作は明らかにその部類。それは面白い面白くないとか、良い悪いとかではなくて、この映画が持ってる偶発的ともいえるような面白さを堪能するには大きな映画館ではなくてこういう小さな映画館がピッタリだと思うんです。…何が言いたいかって、個人的にこの映画を観るのにぴったりな環境で観た(=かなり全肯定)ということ。

 

 

 

 

設定とキャラの妙

この映画がカメ止めよりも優れている点こそ、この設定だと思う。カメ止めは設定を説明してしまうと面白味が薄くなってしまう=人に勧めにくい作品だったのに対して、本作の探偵モノ×役者という設定は、それだけでワクワクできる。さらに登場人物もカメ止めからよりブラッシュアップされた魅力に溢れている。しかもその魅力はカメ止めと地続きで、上田監督作品のキャラはみんな”可愛げ”があるのが特徴。主人公和人のダメダメっぷりや、弟宏樹の無鉄砲な可愛さ、天然だけど優しい社長(ボス)にドSだけど笑顔が素敵な鮎、さらにクールで頭脳明晰な田上。そして関西弁をベラベラ話す克樹にアホそうな教祖、そして男を手玉に取る天才のような女幹部七海。このように今作は、より愛嬌のあるキャラクターを作り出すために、登場人物の見せ場を増やして、キャラを濃くして、嫌味のあるキャラを排除することで、映画全体の”上田色(=愛嬌)”が濃くなっていました。

 

 

 

 

ドラマか映画か

探偵モノって、とってもテレビドラマ向きな設定だと思うんです。1話完結で、そこまで大きくならない事件をコメディを交えて描いていくテレビドラマってもう星の数ほどある。この映画の設定も例外ではなく、キャラの魅力や設定の面白さが光れば光るほど、どんどんテレビドラマっぽくなっていく。良く言えばもっと見たい!と思わされる反面、これ映画じゃなくても良くない?という気持ちが生まれてくるのも事実。

正直、ここで終わってしまう映画作品もよくある。けど上田監督は終わらなかった。映画に求められているモノをちゃんと理解しているからこそ、テレビドラマ的な魅力でぐいぐいラストまでもっていって、最後に映画的に落とす。和人がヒーローになることで自らのカラを破り明かりが灯る。自分の葛藤、不安から抜け出して成長する。さらにそこに、実はこの話は全部スペシャルアクターズによる仕事で、和人はターゲットでしたー!というオチが付くことで、2時間の映画としてとっても綺麗に終わる。テレビドラマ的だった展開全てが映画的な伏線になってしまうという巧妙さ。

 

 

 

 

違和感の魔術師

誰もがカメ止めの成功からこの映画を鑑賞し、そこには期待と不安が入り乱れていたと思うんです。カメ止めの監督だからという期待感と、それでもあれは超えれないだろうという不安。

そんな中で公開された本作で、上田監督の作風がビタッと示されていました。「おれはこういう作風だ!!」と、自分を曲げずに突き詰めた結果、カメ止めと同じなのに違う、違うのに似ているとっても絶妙なバランスを貫いている。カメ止めで感じた魅力は、その意外性でも新鮮味でもなく、上田監督の人柄が溢れ出たような愛嬌と、彼の巧みな脚本から生まれる必然的なものだったんだと高らかに宣言しているような作品でした。

 

上田監督が最も得意とするのは、観客の”違和感”を操作する事だと思う。カメ止めでは冒頭のワンカットシーンでの違和感を伏線的に散りばめたこと。「イソップの思うツボ」(複数監督のため上田監督かはわかりませんが)ではラブコメ調の違和感ありまくりの冒頭。

そして本作でもそれは健在で、今作で上田監督が観客に意図的に与えた違和感は2つ。まずはムスビルの胡散臭さ。そしてもう1つが、主人公和人の設定。和人は役者仕事をしながら、それでは食っていけないのでバイトをする毎日を送っていて、緊張がピークを越えると気絶してしまう体質。正直、この設定だけならあの”演技の拙さ”は要らないんです。役者を何年も目指していたなら気絶するまで、つまり緊張がピークに達するまでは天才的な演技ができる!とかでも良かった。しかしあえて、常にある程度緊張していて演技を震えながらしているという、役者志望という設定に違和感を感じてしまうような人物なんです。演技素人であるはずの旅館の妹のほうが演技が上手いと感じるぐらいに、和人の”役者を目指している”=”スペシャルアクターズとして演技で人を騙している”という設定に違和感がある。

しかしこの違和感、もっといえば鑑賞するうえで不快感を覚えかねないこの演技こそ、上田監督が仕掛けた”違和感”だったんです。

誰も、和人の演技力で騙されてなんかいなかった。むしろ、自分だけが騙されていたという。観客の違和感を伏線的に拾い上げる。これこそ、上田監督作の真骨頂なんです。

 

 

 

 

最後に

もっともっと、上田監督が好きになるような、上田色全開の”好きな”作品でした。

是非映画館で、それも大きすぎない丁度良い映画館でご覧ください!