「生きてるだけで、愛。」感想 生きるのがしんどい。そんな言葉に出来ない辛さを、映画館で目の当たりにした。

「生きてるだけで、愛。」
 
イメージ 1





怪演
何と言っても、主演の趣里の演技力が凄すぎる。普通の映画なら展開の辻褄が合わないために支離滅裂になってしまいそうな、突飛な行動や言動さえ、彼女が演じることで“現実”になってしまう。映画の登場人物とは思えないほど、現実味を帯びていて、なんなら物凄く共感してしまって、自分と重ねてしまうほど。
自分の内面を、自分の一番嫌いな部分をスクリーンに見せられる、という今まで経験したことのない演技でした。正直、陶然としてしまった。
菅田将暉も物凄く難しい役をこなしているし、仲里依紗もパッと見た瞬間にわかる意地悪笑顔もよかった!!
 



“鬱”
身内に鬱の人がいたり、もしくは自分が鬱の人も、鬱だった人もいるかもしれない。
私は、現在身内に鬱の者がいます。さらに、元々物事をネガティブに考えやすい性格の私は一時期、鬱状態だったことがあります(こちらは当時、診断を受けていないので確証はないですが…)
そんな私にとって、この映画の寧子はもう、私そのものでした。ハンバーグを作ろうとひき肉を買いに行ったのに売り切れてて、卵を買おうとするとぶつかられて卵が割れ、家に帰るとライターの火がつかず、そしてブレーカーが落ちてスマホを探すも見つからない。この時の寧子の感情の起伏は、見るのが辛くなるほど“自分”でした。ライターの火がつかないタイミングにキレたり、探し物が見つからずにパニックになったり。嫌なこと、上手くいかないことばかり意識し始めて、もうゴールなんて見えなくなって、今何をしたいのか、何をしてるのかもわからなくなる。この悪循環が、本当に辛い。
 





人の善意
そんな、共感しっぱなしの私ですが、ハッとさせられることもありました。それは、人の善意が怖いということ。人に自分(の見られたくない部分、嫌いな部分)を見透かされる恐怖。しかも、相手はこっちのためを思ってやってくれてる。だけど、ちゃんとそれに見合った返事ができない。ウォシュレットの話みたいに、ただ言葉を並べることしかできない。人に優しくすることが、こんなにも怖いとは思いませんでした。
 





津菜木
そんな寧子を支える立場なのが、津奈木。彼は、寧子を否定せず、頷いてばかり。劇中で、寧子はその態度に腹が立ったようなセリフを言っていましたが、寧子にとって、少なくとも付き合いたての寧子にとっては、彼のこの対応は心の支えになっていたんだと思う。過度に心配したり、叱りつけたりせず、ただ頷く。相手のことを思えば思うほど、これって難しい。意識的にせよ、無意識的にせよそれをやってのける津奈木は、そりゃあモテるし、あんな可愛い元カノもいますよ。
でも、その津奈木の対応に、ある時寧子は疑問を持ったんだと思うんです。あれ?こいつ、全然考えてないのか?と。頷くだけが心地よかったのに、気づけば頷くだけなのが物凄く腹が立つ。そんな変化に、津奈木は振り回される。一方で、会社で上手くいかずに疲れ果てていた津奈木は、ついに爆発する。そこでやっと、寧子の変化に気づく。彼にとって、寧子が生きているだけで、愛らしいんです。寧子にとって、彼が愛してくれるから、生きるんです。
 





人生において、こんな苦しい悩みを持っているのが自分だけじゃないんだ。そして、その先には幸せが待っているんだ。それが知れただけでも、本作は大切な一本になりました。自分が好きになれない人、自分を大切にできない人。そして、生きるのがつらいと感じたことのある人に、是非観てほしい、そんな映画でした。