「ジョン・デロリアン」感想 ”どうせ車を使ってタイムマシンを作るなら、カッコイイほうがいいだろ?”

「ジョン・デロリアン」(字幕)

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今では誰もが知る名車となったDMC-12(デロリアン)。しかしこの車は、様々な欠点からキャンセルが相次ぐ欠陥車だった。

なぜジョン・デロリアンは、自分の名前をそんな車に付けたのか。

 

この映画には、1人の天才ジョン・デロリアンの夢が詰まっていた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

80年代初頭

舞台となるのは、1970年代後半から1982年のDMC社倒産までのアメリカ。この時代ならではの、ギラギラした衣装に車、そして音楽が本作には溢れかえるほど詰まっている。クラックブーム直前という時代背景も相まって、この時代とヤクの相性は抜群。

そんな、今ではクラシックともいえるような時代に突如現れたのがデロリアン未来からきたような洗練されたデザインにステンレス製という斬新さ、そして象徴的なガルウィング

この映画で描かれる80年代初頭は、クラシックとそこから見据える未来が交わり合った、最高に魅力的で刺激的な時代。

 

 

 

騙す奴と騙される奴

そんな時代を生きる本作の主人公ジム。彼は麻薬の密輸がFBIにバレたことでFBIの情報屋になった。そんなジムは誰と会ってもユーモラスに、そして自分を下げて相手を上げるような話し方をする、まるで営業マンや詐欺師のような、口の上手さで成り上がってきたような人物。

一方で、ジムの隣に住むのがジョン・デロリアン。彼は、ゼネラルモーターズの副社長から独立してデロリアン・モーター・カンパニー(DMC)を立ち上げた。ジョンは常に周囲の目を気にして、自分を如何に器がデカくて、紳士的な人物に見られるかを気にする男。彼は金持ちらしく優しい口調で人と接する反面、勝負で負けると癇癪を起こしたりする。ジムとは真逆で、ジョンは自分の見た目、外面、才能でのし上がってきたような人物。

 

そんな両者は、劇中何度も騙される側にも騙す側にもなる。ジムは冒頭から麻薬捜査に引っかかってしまうけどユーモラスにFBI捜査官に話したり、ジョンを騙す時も最後まで友情と揺れ動いたり。彼は自分を低く低く見せるんだけど、そうすればするほど本心が透けて見えてくる。ジョンを騙したり、裁判で発言したり、彼は常に悩み、苦しみ、怒るけど、でもジョンへの友情、尊敬もあるし、自分の家族への愛もある。彼は騙されるし騙すような卑怯者だけど、人間味溢れるカッコよさを持っている。

ジョンはジムとFBIの策略で逮捕されてしまうし事業はどんどん落ちていくんだけど、ジムとの無茶苦茶な友情を大切にしていたり、紳士的に振る舞おうとする内心には自分の才能に対する情熱と責任がしっかりあることが垣間見えてくる。そう、彼は上司としてのカッコよさに溢れている。そんなジョンはもちろん後半に行くほど騙され、地位的には落ちていくんだけど、それでも常にカッコイイんですよ。騙されてるのにカッコイイ。それこそジョンの魅力なんですよね。

この映画は、騙す奴も騙される奴も、両者を小馬鹿にも悪党一辺倒にも描かず、両方をグラグラと揺れ動く様をこそ描くことで、ジムやジョンがどれだけ絶望的な展開に堕ちていっても滑稽に見えないようになっている。全力で信念を持って生きてる人間を見て、小馬鹿になんて出来ない!!

 

 

 

飛びそうな車

そんな本作のラストに登場するのが、今ではすっかり名車になったデロリアン。何を隠そうこの映画、デロリアンの本物が出てくるシーンはこのラストだけ!あとは、ニュース映像だったり模型だったり図面だったりと、現物は見せてくれない。しかし、だからこそこのラストが光るわけですよ。

ジョンが夢見た、最高に未来的でカッコイイ、自分の名前を冠した車であるデロリアン。この車のせいで、発売した矢先にクレームが殺到し、資金繰りに失敗し、最後には犯罪者一歩手前まで堕ちてしまった。しかし堕ちていく中でも彼は自分の夢を信じ、信念を貫き通し、最後まで自分の”主義”を覆さなかった。そんな彼が最後に送った、夢と信念の結晶。そしてそれを受け取ったジムもまた、Deloreanという車、そして人物に夢を見た男。人を騙し、信頼を失い、しかしそれでも守ろうとしたもの、Deloreanを、彼は遂にラストで受け取る。Deloreanがダブルにもトリプルにも重なる意味を持ったこのラストシーンは、名車デロリアンがより好きになる名シーンでした。

 

しかしそこでは終わらない。ジムが意気揚々と乗り込んだデロリアン。受け取ったキーを刺し、エンジンをかけるけど…。

もうね、この最後の最後まで皮肉たっぷりな突き抜けたラストシーンは最高過ぎる。デロリアンは”飛べそうなのに飛べない車”と揶揄されていたポンコツ車だったけど、それでもなお歴史に残る名車になっていて、今でも愛好家が存在する。そんなデロリアンへの愛が詰まった、最高のラストシーンでした。

 

 

 

--『映画といきもの』--ガルウィングの飛び方

デロリアンのドアであるガルウィングドア。デロリアン好きな方、車好きな方ならどんな形の扉かご存知だとは思いますが、ガルウィング(gull wing door)はカモメの翼ドアという意味なんです。それはガルウィングドアのシルエットがカモメの飛翔時の翼に似ていることから来ているんですが、ではなぜわかりやすいBird wingでも、かっこいいHawk wingでもなくカモメなのか。

 

鳥の飛び方にはざっくり4種類あります。

1つ目は直線飛行と波状飛行。最もよく見るしイメージする飛び方で、翼を上下しながら傾けることで推力をとらえて上昇して、時には滑空することで飛翔している。この飛び方の特徴は、羽を上下に動かし羽ばたくこと。

2つ目は滞空飛行。ハチドリなんかはこの飛び方で、この強みはなんといっても空中に滞空できること。定住する餌を取ったりするときには、こういう飛び方が最適。この飛び方の特徴は、常に高速で羽ばたき続けないといけないこと。

そして3つ目は滑翔飛行。タカやワシなんかが行う飛翔方法で、高所から滑空してまさに”カッコつけながら落ちてる”ように飛ぶ。この飛び方の特徴は、羽をピンと広げてほとんど羽ばたかないこと。

最後に4つ目、帆翔飛行。これがカモメの飛翔方法で、滑翔飛行と同じく滑空することで飛びます。滑翔のように森の高木などから一気に落ちて飛ぶのとは異なり、海を渡るなど陸地が極端に少ない場合に行う飛翔方法で、上昇気流などを上手く利用して上昇しながら滑空しています。この飛び方の特徴は、滑翔と違い翼をカクっと曲げていること。こうすることで上昇気流を上手くとらえているんです。そしてこの形が、ガルウィングドアに似ているということ。

 

このドアがあってこそデロリアンは”飛べそう”な車として認知されていました。まさかこの数年後に、本当に”飛べる”ようになるなんて、当時の人も、そしてジョンデロリアンさえも思わなかったでしょうね……w

 

 

 

 

最後に

騙される側も騙す側も、常にクールでカッコイイ良作でした。デロリアンが好きな人なら、絶対にもっと好きになる作品なので、是非映画館で楽しんでください!!