「運び屋」感想!!!家族とデイリリーの花と運び屋。どの自分が、人生なのか?

「運び屋」(2D字幕)

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クリントイーストウッドがおくる、ポップな雰囲気とブラックなユーモアが混ざった最高の人生論!

 

 

本日のお品書き

 

 

 

運び屋おじいちゃん

90歳で運び屋としての才能を開花させたおじいちゃんのアール。運び屋稼業は、デイリリーの花を育てることが生きがいだった彼にとって、第2の人生が始まったといっても過言じゃないぐらい楽しそうなんですよねwそれを彩るポップなテンションと美女たち、そしてカネ。いやぁ、正直最初は若干「ウルフオブウォールストリート」の優しいバージョンを観ているような、もう毎日が楽しい状態なんですよね。お金が手に入れば人間関係はもっと上手くいくし、美女とヤれるし、車だって買い替えれる。どんどん充実した生活になっていくアール。だけど一方で、裏でDEAが捜査に乗り出すし、カルテル側も彼をどんどん利用してくる。この、ヤバいことが起こってることと彼の充実していく生活の差が、気味悪い不気味さを生んでる。

ブツを運んでいるとき、彼は人助けしたり買い食いしたりと自由気ままで、ノリノリの音楽を歌いながら、まるでドライブするかのように運び屋家業に務めてる。この、一見楽しそうな描写が、回数を追うごとにどんどん不気味に、真っ黒になっていく。人間、ヤバいことに直面するまでが最高に楽しいんであって、ヤバいことに直面してしまうともうあの頃には戻れないと知ってる。だからこの、前半の運び屋シークエンスは楽しそうなのに怖い、そんな印象を受けるようになってる。ああ、これからヤバいことが起こるんだ…と。

 

 

 

 

家族愛

家族を愛するのは簡単でも、愛し続けるのって本当に難しいと思うんです。ちょっとした出来事で、愛を忘れ喧嘩してしまうこともあるし軽蔑してしまうこともある。でも、人間という生き物に生まれたからには家族は愛すべきだと強いられる。”家族を愛する意味”を見出せないから、彼はデイリリーを育て続けたんです。そうすれば、品評会で出会った友人や同業者を愛すだけで良いんですから。愛し続けるんではなくて。

そんな彼が、晩年を迎えた妻のある言葉でやっと気が付くんです。

「あんたは最愛の人で、苦痛の元だった。けど、あなたが来てくれて心からうれしい。愛にお金を払う必要はないのよ。」

人を愛すのではなく、愛し続けるというのは、共に人生を送ることなんだ。と、晩年を迎え嬉しいことも辛いことも容認してくれた妻を見て、やっと理解するんです。人生を容認し、容認されるために、家族は愛し続けるんだ、と。

 

 

 

 

デイリリーの花

そんな彼の、逃げ口だったデイリリーの花。この花は、名前の通り1日で花が枯れてしまう。でも、この花は次から次につぼみを付けるんです。1つの花が枯れてもまた次の花が咲く。だから、大切に育てると何か月も花を見続けられるんです。彼の逃げ口だったこの花さえ、実は愛し続けないと死んでしまう、けど愛し続けるといつまでも咲き続ける花だったんです。だから彼は、家族を愛することを学んで、再びデイリリーを育てた。愛し続ける意味を知ったから…。

 

 

 

 

人生論

この映画を観れば、誰もが人生について考えてしまうはず。人生って、何を楽しみにすればいいんだろう、何を大切にすればいいんだろう。そしてこの映画は、そこに明確な答えを示さないんです。家族を大切にしよう、と言いつつそれでもデイリリーの花を育てるのも大切にしよう。この映画は、人生に大切なこと全てを容認してると思うんです。

一方で、人生に正解を出すことを批判してるとも感じたんですよね。

”人生の答え合わせをするな”

”老いを迎え入れるな”という歌がエンドロールで流れますが、老いという安直な回答で、自分の人生はこうだった、とか自分の人生こうすれば良かった、ここが悪かった、と人生を完結させるな。答え合わせをしてしまえば、もうこれ以上の答えを提示することは出来なくなる。人生に答えなんてないのに、あたかも有るように答え合わせをしてしまえば、そこで人生は終わる。

これをよく表してるのが、劇中で何度も繰り返されるインターネットへの批判。スマホを使えばすぐに答えを探せる現代で、若者はすぐに答えにたどり着こうとする。確かに、答えにすぐたどり着けるのは便利なのかもしれない。けど、答えが直ぐに出れば、思考は停止してしまう。この映画は、すぐに答えを出してしまうな、と若者へ警鐘を鳴らしてもいる。

 

 

 

最後に

そんな、高齢の方への応援と、若者への警鐘を嫌味なく伝えきっているのが本作。この映画を観た後、人生について誰かと語り合いたくなる、そして高齢の方とお話したくなる1本でした。是非、映画館へ!!

ちなみに、デイリリーの花の花言葉は空想、媚態、一夜の恋、宣言。これだけでも、また人生論妄想が捗りそうですよね…w