「ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語」感想 結婚、作家志望、お金持ち。幸せな人生には”結果”と”過程”が溢れている。

「ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語エマ・ワトソンら出演で4姉妹の人生を描く映画「Little Women(若草物語 ...

 

 

 

 

 

 

 

 

あらすじ 

19世紀、ニューヨーク。1人の女性が、街を駆け抜けていた。作家志望のジョーは、家庭教師をしながら出版社に足を運んでいた。

彼女は四姉妹の次女。彼女の歩んできた子供時代、そして彼女達がこれから歩む”現実”は、あまりに残酷で幸せな日々だった。

 

100年以上愛される「若草物語」が、全ての人類に向けて現代に蘇る。

 

予告https://www.youtube.com/watch?v=AsVOg6N_hGI

 

 

 

 

 

愛おしい四姉妹

はじめに、私は1949年版「若草物語」しか見たことがない若草物語弱者です。原作などに言及することは出来ませんので悪しからず。

1949年版にも本作にも通づる魅力は、四姉妹の暮らしぶりです。性格も夢も違う四姉妹は時に喧嘩したり、時に意見が分かれたりするけれど、それでも仲良しであることには変わりない、母を愛していることに変わりはないあの四姉妹こそが、「若草物語」を構成する最重要なピースだと思います。

1949年版ももちろんこの四姉妹について魅力たっぷりに描かれていましたが、本作ではより人間らしく、生きた演出をしています。会話が途切れないように、四姉妹がそれぞれバラバラなことをガヤガヤ話すテンポを重視しているんですよね。映画的な意味深で強調的な会話では無く、あえて聞こえづらくさえなってしまうほどに会話を”かぶせる”ことで、四姉妹はどのシーンでもそれぞれバラバラに考え発言していることが伝わってくる。1つの目的に向かって演技するのではなく、四人ともバラバラなんですよね。これこそ、本作が描こうとしたテーマに大きく関わってくるんです。

 

 

 

 

幸せの形

そんな四姉妹はそれぞれが将来の夢、幸せを目指して生きている。

長女メグは結婚や優雅な暮らしのような”大人”に憧れを持っています。1番のお姉さんだからこそ、早く大人になりたい、ならなくちゃという気持ちが前に出ているんです。そんなメグは、お金持ちではないけど人格者であるジョンと結婚するんですが、この結婚がまさに現代的。愛でお金は稼げないし、でもメグには完璧主義でお姉さんというプライドがある。後述しますがエイミーがヨーロッパで大きく羽ばたいて行こうとしているのを、なんとかその先に居たいというプライドから身の丈に合わないドレス生地を買ってしまう。愛という表層的な幸せに包まれた、結婚生活という現実的な問題にメグは悩まされるんです。

次女のジョーは作家志望。結婚は女の宿命だという考えへの反骨精神から、絶対に結婚なんてしないと固く決意しているんです。そんなジョーを悩ませるのは、虚無感。結婚なんて、愛なんてと言っている彼女でも、寂しいと言う気持ちが湧いてきてしまう。生物としてのつがいを結婚という契約システムとして成立させてしまった人間にとって、寂しさを癒す唯一の方法は結婚。寂しさを克服したい人間的な欲求と、女の可能性を潰したくないという意思が彼女の中で葛藤しているんです。

四女のエイミーはお金持ちに憧れています。わがままでトラブルメーカーなんだけど、彼女は自分の人生に何が必要かを理解しているんですよね。お金は必要、絵描きとしての道は必要ない。サッパリした性格の彼女は姉妹で最も現実主義で、最も結果に拘っています。

三女のベスは、本作で1番重要な立ち位置。彼女は姉達とは異なり、自分には将来、即ち努力や成長の先にある”結果”が無いことを知っている。どれだけ努力しても、なりたい自分にはなれないと知っている彼女にとっての”幸せな未来”は、唯一不定形なものなんです。結果を目指せない彼女が見出す”幸せ”こそ、本作の重要なメッセージになっていく。

 

 

 

結果と過程

メグの結婚願望、ジョーの作家志望、エイミーの現実主義。これらは全て”結果”なんです。好きな人と出会って結婚し子供を授かる。作家として成功する。お金持ちの幼馴染と結ばれる。彼女達が目指した幸せのその先には結婚生活の苦しみ、作家性と商業主義の対立、姉との確執…と幸せばかりとはいかない。そんな苦しい未来と、楽しかった四姉妹で暮らした日々を本作は交互に見せていく。”結果”とそこに至る”過程”を同時に見せることで、どちらが本当の幸せなのかが如実に見えてくる作りになっているんです。

結果に死が待っているベスだけが、この映画でそれに気づいているんですよね。結果よりも日々の過程にこそ幸せを見出す。ベスがいなくなったリビングを写し出したあのシーンで観客はそう気づかされる。彼女の生きた日々、これこそ”幸せの形”なんです。

 

 

 

 

オチは”ない”

そしてその幸せの形へとこの映画は収束していきます。「若草物語」の出版により出版社に呼ばれたジョー。そこで報酬について議論する中で、女主人公なんだからラストは結婚させろと言われるんです。それにジョーは、そうする代わりにパーセンテージの引き上げを要求する。

結局、ジョーは結婚したのかしていないのかは明確には明かされないんですよね。そう、この映画にオチは”ない”んです。”結果”はないんです。作家を夢見て突き進み、理想の男性に出会い、その後どうなったのかはわからない。でも紆余曲折あった彼女の人生はあまりに”幸せ”に溢れています。何になったって良いし、何をしたって良いし、何をしなくたって良いんです。”過程”を楽しめたなら。

 

 

 

最後に

女性のためなんて概念を超えて、今を生きる全ての人達に響く”幸せ”を巡る物語として昇華した現代版「若草物語」。

是非映画館でご覧ください!