「ひとよ」感想 家族とは何か。ある一夜が、その答えを紡ぎ出す。

「ひとよ」

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喧嘩もするし、恨んだり、嫌ったりする。だけど笑いあったり、悩みを相談したり、励まされたりもする。

そんな矛盾を孕んだ”家族”とは何か。その回答のような作品。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

演技

多分、中高生を中心に最も人気があると言っても過言ではないと思う俳優の1人が佐藤健。個人的にはデフォルメされた演技が得意な俳優さんだと思っていたので、この映画に向いてるのかな…?不幸な家族という設定なのにイケメンってどうなの?と不安だったんですが、そんな私をぶっ飛ばしてやりたいぐらいに彼の演技には意味と力が籠ってました。イケメンだからこそ、未来に可能性を感じるからこそ、あの一夜ですべてが変わり、ぐれてしまったという設定が活きる。この役は、イケメンで尚且つやさぐれた演技が上手い彼だからこそできた役だったと思う。

そしてもう1人の注目女優が松岡茉優。彼女の演技は本当に繊細で、近作だと「蜜蜂と遠雷」ではほとんど喋らない役を演じ切っていました。しかし本作では、結構喋る。意味のある事ない事、無駄に喋るんです。それだけ聞くと彼女の演技力を蔑ろにしてるように聞こえるかもしれませんがそんなことはなく、この多い口数に隠された真意、口が悪いことが意味する育った環境という意味、そしてお母さんが大好きという気持ち。そんな、ぐにゃぐにゃした気持ちを体現したような、そんな不安定な演技。これも彼女にしか出来ない役だったと思いました。

 

 

 

 

一夜

タイトルにもなっていますが、一夜って不思議な時間ですよね。例えば稲村家のように生活や世間の目が変わってしまうこともあるし、堂下家のように息子を信じられなくなってしまうこともある。さらに新たな命を授かることもあるし、性欲をぶつけ合うこともある。一夜は、生きることも死ぬことも起こりうる。でもその時間は、他の誰かには関心さえ無かったり、当人も無かったことにすることもある。”ひとよ”とは、動的な生命力を秘めていながら、静的な無意識さを持っている。静と動が紡ぎあう時間。

たまに夜景を見たくなるのは、そんな静的で動的な不思議な空間に飛び込みたくなるからなのかな、と思ったり。

 

 

 

 

 

ファミリーと家族

そんな一夜で変わってしまうこともあるのが、本作のテーマである”家族”。稲村家は、母による父の殺害によって様々な困難にぶつかってきた。それは稲村家が経営していたタクシー会社も同じく。しかし15年後、タクシー会社は持ち直し、今でも忙しく繁盛している一方で、稲村家の兄妹たちはどうしても過去の出来事を乗り越えられないでいた。この稲丸タクシーの社員は本当に仲が良く、まるで家族のような関係なんです。だけどこの仲間意識がとっても高い稲丸タクシーのような関係は、”ファミリー”的であって”家族”的ではないと思うんです。”ファミリー”は仲間で、グループ。

一方で稲村家は”家族”的で、意識的な仲間ではない。稲村家は喧嘩したり、侮蔑的に相手を見たり、絶交だってする。だけど慰め合ったり、悩みを打ち明けたり、笑い合ったりもする。そんな、表裏のような真逆の感情の矛盾を共感しあった、腐れ縁のような関係こそ”家族”だと思う。

単純でわかりやすい、住みやすい”ファミリー”と、複雑で住みにくい”家族”。だけど人間は、家庭として”家族”的関係を望む。そんな矛盾を感じるからこそ、稲村家が”家族”になっていく過程を観る事で次第に観客に”家族”とは何か、という答えをこの映画は教えてくれる。

 

 

兄妹

私はまだ未婚で、2つ年下の妹がいるので、どちらかというと共感するのは稲村兄妹のほう。兄妹って難しくて、例えば兄が大学に進学したなら妹は劣等感に苛まれるし、妹が理想の就職をすれば兄は嫉妬する。兄と妹って、一番近いからこその競争が常にある。本作では兄妹の真ん中である雄二が一番この競争意識を持っていて、彼は兄よりも、妹よりも優れている自分を追いかけて、家族を突っぱねてきた。兄妹を突っぱねれば突っぱねるほど、兄妹というレースにどっぷりハマっていく。一番家族を嫌っていそうな彼こそ、最も”家族”的な人物だったんです。

兄妹は喧嘩をする。侮蔑的に見る。だからこそ、”兄妹”であり”家族”なんです。

 

 

最後に

なんだかフワフワした感想になってしまいましたが、その感覚だけでも伝われば幸いです。

”家族”というモノの回答の1つを、是非映画館で肌に感じてください!