「凪待ち」感想!!!”優しさ”という暴力は、時にどんな暴力よりも 痛く辛い。

「凪待ち」

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香取慎吾が死んだ眼で猫背なギャンブル依存症の男を演じ切った怪作!!

 

 

 

 

 

本日のお品書き

 

 

 

 

 

 

香取慎吾

彼のイメージって本当に人それぞれで、世代によっても違うと思うんです。私は幼少期に信吾ママ、「西遊記」や「忍者ハットリくん」を経て「こち亀」なんかも世代だったりと、とにかく明るい陽なイメージ抜群でした。でも彼は、バラエティなどではかなりおっとりしていたり、SMAPの中でも盛り上げるというよりは癒しキャラで、この2つの陽なイメージが、香取慎吾への印象でした。そんな彼が、ギャンブル依存症の役を演じるなんて、どうなるんだろう、もっといえば出来るんだろうか…と、幼少期の記憶が反発して楽しみというよりは不安だったんですよね。

しかし、それを一発で覆してしまったのが本作のポスター。感情の共有を一切受け付けない、死んだ眼の香取慎吾。そして本作では常に彼は死んだ眼、猫背を徹底し、異様なオーラを常に放つとんでもないキャラクターを演じ切っていました。リリーフランキー音尾琢真のような演技力のある俳優たちとは違う、独特のアウトローな雰囲気はSMAPの解散無しには語れないのかもしれませんが、その”国民的アイドルグループの解散”という経験と、その後の彼の活躍こそ、本作のメッセージと明らかに鏡像関係にあり、観客は彼を自動的に”香取慎吾”であり”木野本郁男”として同時に捉えてしまう。

 

 

 

 

 

ギャンブル依存症

香取慎吾演じる木野本郁男は、とんでもないギャンブル依存症なんですよね。彼を心配して、身を綺麗にしなと渡された金を、直ぐにギャンブルに使ってしまう。ダメだとわかっていても借金してまでギャンブルに溶かしてしまう。暗い自分を見ないために酒を飲みまくり、心が暗くなると暴力に走る。彼はギャンブルに溺れ、酒に溺れ、暴力に溺れている。そこから脱出しようと必死に藻掻くよりも、諦めて堕ちて行ってしまったほうが楽なんです。でも、どんどん這い上がれなくなる。どんどん、つらくなる。そして、どんどん自分が嫌いになっていく。依存症に限らずとも、誰もがこういう経験をしたことがあると思う。何か人に迷惑をかけてしまったこと、自分の劣っている部分を気にしてしまった事で、自分の事が嫌になり、他人の目も気にならなくなるぐらいに堕ちて行って、でもそんな自分が情けなくてしょうがない。死んだほうが良い、とまで思ってしまう程に。けどそれは、自分が劣っているからとか、そういうんじゃない。自分を支えてくれる全ての人に対して”情けない”から死にたい。申し訳ない、見限られたくない、迷惑をかけたくない、頼りたくない。そんな気持ちがグルグル渦巻いて、死にたくなる。

 

 

 

 

 

”優しさ”という暴力

そんな郁男を、周りの人は常に支えてくれる。何かやらかしてしまうと、それを聞きつけた周囲の人は、彼を助けてくれる。しかし、助けてくれればくれるほど、その善意に答えられない自分が情けなくなっていく。優しくされればされるほど、ぶん殴られたかのように痛みを感じる。もっといえば、実際に拳でぶん殴られるほうがマシなんじゃないかってぐらい、”優しさ”の暴力は痛い依存症の郁男を本当の意味で助ける術は、亜弓のようにお金を渡さない事。優しさ、善意を彼に向けず、ギャンブルは禁止、お金も渡さない。そんな彼女を失ったことで、郁男の依存症はエスカレートしていく。”優しさ”でボコボコになった郁男が最後に目の当たりにするのは、自分”優しさ”をぶつけ続けていた小野寺の逮捕と、自分”優しさ”をぶつけ続けていた渡辺の逮捕。”優しさ”を与える側も、受け取る側も、誰も彼も何かに苦しんで、溺れているんだ。最初は動揺する郁男だけど、それを段々と理解して、やっと彼は”優しさ”に答えられる人間になる。

 

 

 

 

 

失う事で、得る物

本作の舞台は宮城県の港町。そこの土地で住む人々は、共通する部分がある。それは、3.11。震災、津波”何か”を失った人々綺麗な海を、大好きな町を、大切な人を。そんな彼らだからこそ、大切な人を失った郁男に優しく接する。亜弓の知り合いである小野寺は彼に「もう1回生まれ変わってやり直したらどうだ」と。亜弓の父勝美は「震災の後、この海は新しくなった」と。彼らは、”生き返る”意味を知っている。諦めるのではなく、”生き返る”ことが大切な時がある。何かを失う事で、得られる物があることを知っている。だからこそ郁男を放っておけないし、助けようとしてくれる。海の底には今でも当時の残骸が残っているけど、この海では新しい生命が宿っている。街は流されてしまったけど、支え合う人々を生み出した。”何かを失う事”の意味を、この映画は観客に伝えてくれる。

そしてそれは、SMAPという国民的アイドルグループの冠を失った香取慎吾が、本作での怪演によって新たな可能性、期待を得たことも、符合している。

 

 

 

 

 

最後に

自分も、人の”優しさ”が辛くなる事も、何かを失ってしまう事もあるだろう。そんな時、この映画を思い出したい。そう思えるほど、何かに溺れる苦悩をこれでもかと描き切った作品でした。何度も何度も脳裏に過る、白石監督はまたとんでもない映画を撮ったなぁ…と感心してしまいます…。本作も、そして彼の次回作も必見です!!

 

 

※2019年上半期映画ベストについて

巷では上半期映画ベストで盛り上がっているし、自分も一緒に盛り上がりたいんですが、どうしても6月28日公開映画も含めてベストを作りたいので、少々お待ちください!

6月28日があまりに期待作連発過ぎて、追いつけていないのが現状です。私生活が少し忙しい事もあり、しばらくかかるかもしれませんが、頑張ります!!いつも読んでいただき、ありがとうございます!