「Swallow/スワロウ」感想 ”飲み込んじゃいけない。”が、彼女を狂わす。

明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。

今年こそ、頑張って更新するぞー!!!

 

 

 

「Swallow/スワロウ」

映画『Swallow/スワロウ』公式サイト|2021年1月1日公開

 

 

ビー玉を飲み込んでみたい。そんな小さな欲望から始まる衝撃の異物作。

 

 

 

あらすじ

顔もよく仕事も順調な夫と裕福な暮らしをおくる妻、ハンター。子供も授かり毎日が完璧な幸せに満ちた彼女は、ある日小さな欲に駆られる。

ビー玉を呑んでみたい。

どんどん大きくなるその欲望に負け、彼女は遂にビー玉を口に含む。その時彼女に押し寄せる罪悪感と快感は、幸せな毎日を壊していくことに……。

 

予告

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本ブログはネタバレを含みます!

 

 

 

 

 

 

ビー玉

この映画の予告を観た方ならわかるはず。ビー玉って、食べちゃいけないってわかっちゃいるけどこんなにも口に入れたくなるのかって気持ちが。口に入れちゃいけないものを口に含む罪悪感、そしてそこから生まれる快感。この、理屈では言い表せないどうしようもない人間の性のような感情を突いてくるのが本作。

健康に悪い、損をする、中には犯罪であっても、”やっちゃいけないとわかっていること”をやりたくなる、いややってしまいたくなる衝動こそ、この映画が持つ儚くも美しい美学のようなテーマ。

 

 

 

 

羽ばたきたい

そんな異食症である主人公ハンターは、妊娠中にも関わらずビー玉や画鋲、時には電池まで呑んでしまう。しかもこの映画はそれまでの幸せな夫婦生活を灰色がかったどんよりした雰囲気で描くのに対して異食するシーンになるとまるでサクセスストーリー蚊のようにテンポ良く、官能的に、そして明るくなる。幸せな結婚生活というレールの上から外れたその瞬間こそ、ハンターの人生は明るくなることを表しており、この映画は異食症の女性の奇想天外ストーリーではなくハンターの人生にスポットを当てたヒューマンドラマになっていく。

 

 

 

Anthem

異食症から夫やその家族、そして実家にさえ居場所を無くしてしまったハンターは、自分の実の父親に会いにいく。過去に女性をモノとして扱った男である父は、今ではしっかりと家庭を持っているんですよね。そんな父親の姿を見てハンターは動転する。異物を飲み込むという”やってはいけないこと”をやってきた自分と父親をどこか重ねていた彼女は、無理矢理父親に”自分とは違う”と言わせてなんとか納得しようとする。恥ずべきことをしたこんな男と一緒なんかじゃない、と。夫婦生活は破綻し実家にもいけない彼女にとって、父親とは違うというのが唯一”自分は常識というレールに乗っている”ことを実感できること。異食症を言いふらされた時も、施設に入れられそうになった時も、彼女は常識というレールから外れることがイヤでイヤで堪らなく、逃げ出してきた。

そんな彼女が、トイレで最後にある決断をする。それは常識というレールからは完全に外れる行為なのかもしれない。もう夫のところどころか実家にさえ行けなくなるかもしれない。それでも彼女は生きていく。今でも女性は結婚、男性は出世が社会的幸福とされている。世の人々は、そのレールを外れまいと必死に自分を押し殺して生きている。そんな私達にそっとレールから外れる勇気をくれるんです。レールから外れたって、自分らしく生きれば良いじゃないか。そう高らかに宣言するようなエンドロールはまさに”賛美歌”なんです。

 

 

 

 

最後に

設定でグイグイ押すタイプの映画かと思いきや、人生の賛美歌のような勇気をもらえる作品だとは思いませんでした。監督のカーロ・ミラベラ・ディビスはなんとこの映画が長編初監督作。とんでもない設定からは想像もできない見やすい作りと、そこから生まれるメッセージ性の高さ含め、デヴィッドフィンチャーゴーン・ガール」を思わせる傑作でした。今後注目しなくてはいけない監督の1人に必ずなる人物だと思います。是非映画館で、この異物作を鑑賞ください。

長文失礼いたしました。読んでいただき、ありがとうございます!

 

以上。