「ホテル・ムンバイ」感想 ”何か”を守る為に立ち上がれる人々は、美しく気高い。

「ホテル・ムンバイ」

「ホテル・ムンバイ」の画像検索結果

 

 

何かのために立ち上がる、この"何か"は人それぞれだけど、そのために立ち上がる人々こそ美しく気高い。
堅実な演出の積み重ねが、ラストのあるシーンで爆発的に泣かせてくれる映画作品だった!

 

 

 

 

 

 

 

 

ムンバイ同時多発テロ

2008年にインドのムンバイで起きたテロ事件は、覚えている方も多いんじゃないでしょうか。駅、映画館、造船所にカフェ、そしてホテルと街全体がテロの標的となり、警察機能も麻痺した最悪の状態が続いたテロ。

そしてこの映画で舞台となったタージマハル・ホテルもまた、このテロ事件で標的になり、甚大な被害を受けました。

 

 

 

あらゆる視点

この映画はあらゆる視点でテロ事件を描く。

 

1つ目は、ホテルで働く従業員アルジュンの視点。彼の視点から描かれるのは、ホテルの従業員としての信念の物語

2つ目は、ザーラとデヴィッド夫妻の視点。イラン系の奥さんとアメリカ人の夫による文化的差異を顕著に描くことで現地に対するアメリカ人の認識を描きつつ、さらにデヴィッド視点では言語のわからない恐怖、ザーラ視点では言語が話せるからこその被害者たちからの侮蔑の目という恐怖を描く。

3つ目は、バックパッカーのエディとブリー。この2人は旅行慣れしていて、こういう緊急事態にもどこか”慣れている自分”を表現してしまう。だからこそこの2人は突飛な行動をしてしまう。

4つ目は、サリーと赤ちゃんの視点。絶対に守らないといけない赤ちゃんだけど、赤ちゃんほど隠れるのに向いていない存在もなかなかないわけで。サリーの視点では、バレるかバレないかという緊張感ある逃走劇が展開される。

5つ目は、料理長オベロイの視点。彼の視点では、被害者のリーダーシップ、さらに従業員たちの統率という最も難しい役割が描かれる。

6つ目は、地元警察の視点。彼らもまた、誰かを守るために立ち上がった人々。

そして7つ目は、テロの実行犯である若者たちの視点。この映画で描かれる実行犯たちは、無知で貧困な若者として描かれる。彼ら自身、自分の死を覚悟していて、それでもなお家族にお金を渡すため、植えつけられた信念を貫くために行動している。

最低最悪の首謀者に使い捨てられる無知な若者の視点。

 

上記した6組は、誰も彼も主役になりうるキャラクターだと思うんです。この映画は、テロ事件を様々な視点で描くことでテロ全体を見渡せる作りになっている。

 

 

 

ゲスト イズ ゴッド

そんな登場人物の中で主人公として描かれるのがホテルの従業員であるアルジュン。彼を始め、このホテルでの合言葉は”ゲスト イズ ゴッド”。多くの従業員はお客様は神様という信念を、最後まで貫き通すんです。家族のため、仲間のためではなく、お客様のために、彼らは自らの命を危険に晒してまでお客様を案内し、必死に守る。

守りたいと思う何かって、人それぞれだと思うんです。だけど、その”何か”のために命をかけて立ち上がらる彼らの姿は、時に美しく、時に戦士のように勇敢に見える。職務を全うしたことを美談にするのではなく、”何か”を守るために立ち上がった行為こそ、この映画は美談にしている。

 

 

とにかく凄惨

そんな従業員の尽力があっても、死傷者が出続けてしまう。上記した視点の半数は亡くなってしまうように、この映画は群像劇なのにとにかく主要人物が亡くなる。アルジュンが守ろうとした人も、避難誘導に従った人も、従業員も。守ろうとしたら必ず守れるのではなく、守れない命が多数存在している。そこさえ甘えなく描き切る。

特にラストの非常階段からの大脱出は凄惨で、誘導する従業員も避難する客も、バタバタ倒れていく。息を飲むではなく、息を殺してしまうほど、死がすぐ隣にあるように感じてしまうようなシーンになっている。

 

 

信念

そんな従業員に対して、劇中で客は本当に感謝をしないんです。それどころか、文句を言ったる宗教をも否定してくる。脱出を終えても感謝の言葉さえなく、アルジュンは出勤時と同じように原付で帰宅する。

 

決死の努力も報われないラストで、劇中唯一それが報われるのが、特殊部隊到着のシーン。脱出を完了し、特殊部隊と合流した従業員と客。そしてその中には、彼らを誘導した料理長の姿も。特殊部隊と料理長がすれ違う、そこで特殊部隊隊員が料理長の肩を叩く。

このシーンで完全に涙腺がやられました。。

 

そんな涙目の私を、この映画はエンドロールでまた泣かせてくる。実際の映像で、再建したタージマハルホテルにかつてのゲストたちが祝福に集まる。……これをするために、劇中では感謝を言わせなかったのか!!と”やられた!”という気分になりつつ、大号泣してしまいました。。。

 

 

 

最後に

堅実な演出を積み重ねることで、最後にとんでもない涙腺崩壊が待っている傑作でした。偏った視点ではない、テロ全体を描くこの作品、この緊張感は是非映画館で体験してください!