「新聞記者」感想!! ⚠ ご鑑賞上の注意 この映画は真実ではありません。絶対に信じすぎないでください。

「新聞記者」

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内閣VS記者。巨大な国家権力を暴くべく、1人の女性記者が立ち上がる。この国が持つ不条理な現実を重ねつつ、それを撃ち返す快感溢れる作品。

 

そしてこの映画は、フィクションと事実の境界線を曖昧にしていく…。

 

 

 

真実を追う者

かなり政治色強めな映画……かと思っていたら、実はすっごくわかりやすかった本作。内閣が隠す陰謀も”生物兵器”というわかりやすい悪だし、記者が追う真実も”故人が残そうとしたもの”という明らかに正義なもの。それに付随する情報も、難し気なだけで全然難しくない。例えるなら、「シンゴジラ」のような政治色。政治っぽいこと言ってるけど、言ってることはかなり物語的。

そんな本作で、真実を追うのが新聞記者の吉岡。彼女は自分の父親の顛末を糧に記者魂を燃やして突き進む熱い女。彼女は陽の立場で内閣に立ち向かい、そしてどんどん新しい事実を明らかにしていく。彼女のパートは、推理モノとして気持ちよく面白い。謎をあまり引っ張らずに定期的に明かしつつ、大きな謎は「そこだ!」という場面までとっておいてくれるから素直に面白い。

一方、真実を弄る側の杉原。彼は尊敬する上司に先立たれ、その意思を継ぐ決意をして事件に関わっていく。彼は陰の立場で内閣の恐ろしさと葛藤しつつ突き進んでいく。彼のパートは、吉岡と違って本当に暗い。人を社会的にも、生物的にも殺す力を持つ内閣と戦う怖さを知っているからこそ、彼は常に血の気が引いている。生きた心地のしない毎日を過ごしながら、それでも上司の意志、国を正そうとする意志を最後まで持ち続ける。彼が経験するあらゆることが、日本という国が持つ、1度落ちたら這い上がることを許さないえげつなさを示しだす。この映画ならではの面白さ、怖さに溢れている。

この映画は、推理とホラーサスペンスという2つの軸で話を進めていく。しかも、その2つに共通する敵は日本という国。今まで、ここまで明確に日本国家を敵と定めた映画があっただろうか。

 

 

 

役者たちの演技

本作を彩る俳優陣は、全員が本当に良い演技をしてくれる。まず吉岡を演じたシム・ウンギョン。かなりカタコトなんだけど、彼女の表情が全てを物語っているから、セリフがいらないんですよね。むしろカタコトなことで、無駄に説明セリフを付け加えてしまわない効果を果たしているし、生きた人間に見える

この映画で最も怖いのが、田中啓司演じる多田。いやぁ、怖い!。無表情、無感情…というより無機質な雰囲気。そんな彼が杉原を怪しむ終盤は、お腹が痛くなってくるくらいキリキリする。「もうすぐ子供生まれるんだって?」だけで人を恐怖に陥れてしまう、名演技でした。

本作で最も凄かったのは、やはり杉原を演じた松坂桃李。彼の、黒い部分を抱えてる爽やかさが何とも言えない独特の、この映画全体に漂うブラックな雰囲気を象徴している。ラストの、杉原が選ぶ決断と、それに対する苦悩や恐怖、全ての感情を一気に見せつける彼の表情は必見。

 

 

 

 

これって……?

本作のもう1つの魅力が、実際にあった事件や問題を思い起こさせる展開。明らかにあの問題じゃない!と言わざる負えないような、国全体の闇が垣間見えたあの問題を描いている。実際にあった問題を思い起こさせられた観客は、フィクションなのにこの映画に真実を見出してしまう。だからこそ、内閣、国家権力の怖さ、えぐさ、そして不透明さに恐怖するし、それを明らかにしていく展開に盛り上がるのは必然的。

実際にあった問題を描く面はかなり細部にまで行き渡っていて、例えば”生物兵器研究”に関してはこの問題で獣医学部の新設が無効になったKS大学にはバイオセーフティレベル3(劇中ではレベル4)のウイルス研究施設がある。その施設では国からの援助により非公開の実験を行っており、KS大学は何度かその施設の話題について隠ぺいしてきた過去があったり…。

 

 

信じさせようとする構造

……というのは、半分ウソです。ごめんなさい。

具体的に言うと、前半のKS大学のBSL3の施設までは本当で、その後は全部でっちあげです。でも、こういう”本当にあった要素”と”見えない要素”を引っ付けることでなんとなくもっともらしい情報になってしまうんですよね。

この映画は、まさしくその構造を使っている。モリカケ問題という”本当にあった要素”と、国家という”見えない要素”を引っ付けることで、観客を信じさせようとする。

これまで色んな国で、政府批判をする映画はありました。例えば「ペンタゴンペーパーズ」なんかはかなり本作と構造が似ている。けど、「ペンタゴンペーパーズ」と本作が全く違う点は、題材がフィクションかノンフィクションか、ということ。もっといえば、ハリウッド映画でよくCIAが悪者になるけど、それは明確にフィクションとして描かれている。数多ある政府批判の映画たちは、フィクションかノンフィクションに二分されると思う。けど本作はその境界線を曖昧にすることで、あたかも新聞記者=正義を追う探究者、内閣=情報操作する悪い奴ら という構造に真実味を帯びさせている。

 

この映画の立ち位置はどっちかというと「イングロリアスバスターズ」が近いと思うんです。「イングロリアスバスターズ」は、ヒトラーをフィクションで成敗する映画で、そこには実際にいたヒトラーと、実際にはなかった映画祭を混ぜてる。でも、「イングロリアスバスターズ」を観て”ホントの話だ!!”と思う人はいないと思うんです。それをしてしまうと、娯楽という域を超えてしまうから。けど本作は、それを超えてしまっている。実際の問題を基にするとすれば、明らかに結末が偏り過ぎている。これをするなら、現実にはなかった問題を作り出すか、結末まで明らかになっている題材を使うべきだと思う。半分現実半分妄想を、まるで真実のように語る歪さが、この映画のパワーを台無しにしてしまっていると思う。

 

 

 

最後に

色々言いましたが、役者陣の演技を観るだけなら1800円以上の価値があるレベルの映画だと思います。この映画のパワーを全身に浴びることができる今だからこそ、この映画を映画館で観てみてください。(でも流され過ぎないでね!)