「隣の影」感想!!!どれだけ憎くとも、お隣さんには笑顔で挨拶。山ほどの殺意を潜ませたその笑顔に、絶叫しながらも笑ってしまう超陰湿な秀作

「隣の影」

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お隣さんとの笑顔の挨拶。

しかしそこには晴れやかな感情はなく、どす黒い殺意が含まれている。

 

巧妙に繰り出される皮肉の数々に、絶叫しながら笑ってしまう超陰湿な傑作!!!

 

 

 

 

 

 

ご近所付き合い

お隣さんの顔を知っている人はどのくらいいるでしょうか。顔は知っていても、家族構成や年齢、職業に生活サイクル…隣人って知らないことだらけだし、別に知りたいとも思わない。けどそんな曖昧な存在である隣の住人は、家族を除けば最も近くで生活を共にする存在。赤の他人なのに、直ぐ近くに住んでいる。生活を共にする。この、考えてみれば気持ち悪い関係を円滑にするために、会えば適当に笑顔で挨拶し、適当な世間話をする。

面倒くさい作業だけど、これを怠ればもっと面倒くさいことは誰もがわかっている。家という最も安心できるテリトリーに最も近くにいる存在である隣人とのトラブルは、どうでもいいのに私生活に多大な影響を与えかねない面倒くさい問題。騒音問題や共有スペースの問題など色んな問題を抱えていても、笑顔で挨拶。赤の他人との歪な関係こそ、ご近所付き合いなんです。

 

 

 

 

笑顔で挨拶、心に殺意

さて、本作では二つの家が登場します。1つお隣の庭にある木のせいで自分の家の庭が日陰になってしまっているエイビョルグの家(以下チーム陰)。もう1つはその木を植えているインガの家(以下チーム木)。この両家は、最初からお互いにあまり好かないとわかっているのに、常に笑顔で挨拶をする。出来る女、若さを保とうとするチーム陰の奥さんエイビョルグと、陰湿な考えと負けず嫌いな性格を払拭できないでいるインガ。この2人の仲が悪いのに笑顔で受け答えする関係が、まさにご近所付き合い。嫌いだけど、こいつとある程度仲いいように見せないと、もっと面倒くさい。そんな、イヤイヤ笑顔を作ってにこやかに話している姿が最高に面白い。

そんな木の剪定について揉める両家だけど、ある日チーム木の家の猫がいなくなる。それをチーム陰がやったと勝手に確証したインガが抱いた殺意によって、この外面はにこやかな関係さえも崩れ始める。

 

 

 

 

セーフorアウト

両家は色々と静かに揉めている。例えば犬の糞を隣の家の奥さんに投げつけたり、車がパンクしたり、花壇が荒らされたり……。そしてこの話と並行して進む、アトリのエロビデオの話。どちらもセーフかアウトか、人によってわかれるようなグレーな出来事ばかり起こるんですよね。もっといえば、相手がやったかどうかもわからない事。でもそれを、一方的に相手がやったと都合よく決めつけてしまう。セーフかアウトか曖昧だからこそ、自由にどんどん決めつけられるから、何か起これば起こるほど、両家の関係が崩れていく。

そんなグレーな出来事を積み重ねることで、ついに決定的にアウトな出来事が起こってしまう…

 

 

 

 

 

吠えない犬(重大なネタバレあり)

誰もが決定的に、もう笑顔で挨拶ができないと確証するのがこの出来事。チーム陰が飼ていた犬が行方不明になり、はく製になって帰ってくる。

これには流石に怒りをあらわにして、ついに全面戦争が勃発。ここから両家は、心にではなく全面に殺意をむき出しにして攻め合う。ここからの、怒涛のラストはもう必見。スリリングで凄惨な、でも起こるべくして起こってしまう顛末。冒頭で優しそうだった印象を持っていた人物含め、ラストにはこの映画に出てくる人物が誰も彼もクズに見えてくる。ここまでが静かに丁寧に組み立てたご近所トラブルだったのに対して、ここからの展開はもうそういう丁寧さではなく、グイグイ嫌なほうに嫌なほうに進んでいく。でも確かに、人の揉め事って考えてる中で最もイヤな方向に進んでいってしまうことのほうが多いと思うんです。そしてこの映画は、それを巧みにシームレスに描いているから、この怒涛のラストが面白い。人が喧嘩しすぎると、ここまでいってしまうのか。

 

 

 

 消えた猫(重大なネタバレあり)

そんなラストの怒涛の展開のあと、遂に本作のオチが。

一線を越えた争いの発端でもあった、チーム木の猫がフラっと帰ってきたのだ。そう、誰も猫に手を出したりしていなかった。殺し合いを見せられて恐怖に陥っていた観客は、ここで様々な感情になると思う。そして私は、ここで爆笑しそうになってしまいました。「もう最悪だよw」と。とんでもなく皮肉が利いた、最高なラスト。絵一発で映画全体の、凄惨な出来事が全てコメディになってしまう、秀逸なシーン。この映画を2回目に観る時はもう、猫が消えたのくだりからはコメディ映画になってしまう。

 

 

 

 

最後に

この映画は隣人同士のいざこざを丁寧に描き、観客の感情まで巧みにコントロールして、サスペンススリラーにもコメディにも分類できる絶妙なバランスで作り上げられた秀作でした。百聞は一見に如かずとはまさにこのことで、どんなネタバレ記事や感想を読むよりも、本作は映画館で開いた口が塞がらない体験をしてほしい。現在日本では2館しか上映されていませんが、随時上映館は増えていくみたいなので是非映画館で観てください。

もう、隣人の挨拶を素直に受け取れない…。