「イソップの思うツボ」感想!!!賛否は分かれても、誰もが上田慎一郎監督作品をより観たくなる作品!!

「イソップの思うツボ」

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賛否分かれる本作。

そしてその理由は、監督上田慎一郎の得手不得手が露骨に現れたがゆえだった!!

 

 

 

 

 

 

 

キャラクターの魅力

賛否分かれる本作ですが、私はまず登場人物たちの記号的ともいえるほどのキャラ立ちが良かったと思うんです。気弱そう、もっと言えば一番私達観客に近い立場の亀田家、それとは対照的に外面だけは良い兎草家、そしてその関係を俯瞰的に見ていて視点的に観客と近い戌井家。この三者三様のキャラクターたちが、しっかりビジュアルだけで立っているのが本作の魅力。見た目や振る舞いだけで、この人の性格や考えをしっかり予想できるからそういう部分の説明を省けているんですよね。特に戌井家は、もっと見たい!と思わせる父娘のやりとりが最高!

 

 

 

スムースな脚本

そんな魅力的なキャラクターと同じぐらい魅力的なのが、スムースな脚本。ヒット作「カメラを止めるな!」と同様に本作もどんでん返しが売りな映画。しかし本作のどんでん返しは「カメラを止めるな!」とは違って、雪だるま式にどんどんひっくり返されていく。この、どんでん返しが重なっていくのがスムースで、素直にどんでん返しを楽しめる。

 

 

 

 

キャラクターの欠点

しかし欠点が多いのも事実。まず、キャラ自体は魅力的なのに、どうしても彼らが生きた人間に見えないんですよね。感情の変化や行動の理由がイマイチピンとこない。これは、キャラのビジュアルがしっかりしているからこそ、観客が受け取るキャラのイメージと作中でのイメージの齟齬が目立ってしまっている。色んなキャラクターが色々どんでん返しを言うんだけど、それが結局なにをしたいのかがわからない。だからどうしても、いやキャラに魅力を感じれば感じるほどに愛着が湧かない。

 

 

 

リアリティの無さ

より重大な欠点は、どんでん返しの魅力の無さだと思う。上記したように、雪だるま式のどんどん進む展開は面白いんだけど、そこで明かされる”トリック”にリアリティが無さすぎる。「カメラを止めるな!」ではリアリティラインがしっかり引かれていて、そこから出てしまった違和感を後から回収していく作りでしたが、本作はその違和感が付きまとう。例えば、ヤクザや金持ちの道楽の要素。仮面舞踏会のような、カイジ的な怪しさがまずリアリティさがほとんどないし、ヤクザも関西弁でいかついという記号的な要素しかない。さらに亀田美羽が見ていた母親の幻覚という要素。こういう、観客がパっとイメージできない、または実際には経験したことがない要素が、どんでん返しの伏線として使われている。だからこの映画にリアリティは感じないし、どんどんどうでもよくなってくる。

 

 

 

歪な脚本

本作の脚本は、スムースなんだけどかなり歪だと思う。第一幕の甘酸っぱい女子大生の恋の物語はスムースで普通に面白いんだけど、第二幕は、セリフ、VTR、絵でどんでん返しを”説明”し続ける。さらに、そのどんでん返しも上記したようにリアリティがないうえに上手くない。亀田家は兎草家にそれぞれ潜入していた、という本作の言ってしまえば一番重要などんでん返しが1番問題で、亀田父と亀田兄は、マネージャーまたは大学の先生という高いスキルが必要な職業に成りすましているのが無理がある。ゴミ回収とか、三河屋さんみたいな潜入で良かったんじゃないだろうか。さらに、亀田娘と亀田兄は浮気という、きわめて不確定な潜入をする。特に亀田娘と兎草父の不倫の展開は、この映画のトーンよりはるかに重い。自分の母を殺した、復讐したいと思っている対象と寝るなんて、尋常じゃない精神力が必要だと思うんです。それを、一般人丸出しなあの娘が出来るとは到底思えないし、話が重すぎて楽しくない。亀田父は、それについて反対とかしなかったの?

キャラを活かせていない、どんでん返しも無理が生じている、歪な脚本になってしまっていたように感じた。

 

 

 

 

監督上田慎一郎の魅力

ここまで言ってきたけど、本作の最大の魅力、もっといえば「カメラを止めるな!」の最大の魅力だった要素があると思う。それは、出てる俳優たちが本当に楽しそうということ。楽しそうに演技しているのを常に感じるし、映画全体も”楽しそう”な雰囲気が漂っている。それゆえにトーンの違う要素が今回はノイズになってしまっていたけど、この”楽しそう”な、パワフルな要素こそ監督上田慎一郎の魅力。この、パワフルな魅力は唯一無二の魅力だと思うし、今後ももっともっと彼の作品が見たくなるのに十分過ぎる要素だと思う。

 

 

最後に

10月にも新作がひかえている上田慎一郎監督の得手不得手がわかる映画でした。賛否分かれているがゆえに、是非映画館で観てください!