「ドクター・スリープ」感想 前作と異なるけど連なる、畑違いだが正真正銘の”続編”。

「ドクター・スリープ」(2D字幕)

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ホラー映画の金字塔「シャイニング」、40年目にしてまさかの続編。

世界中の期待という高いハードルを前に本作が取った手法は、まさしく”続編”だった。。。

 

 

 

 

 

 

 

「シャイニング」

皆さんにとって、「シャイニング」とはどういう作品でしょうか。怖いという人もいれば、全然怖くないって人もいる。そんな不思議な作品。

私にとって「シャイニング」は、この”不思議”さをとっても怖く感じる映画なんです。散りばめられた演出の数々と心理描写でジリジリと恐怖を煽られる中で、これが怖くないって人もいる。言い換えれば、自分には怖く見えてしまっている。この”わかってしまっている”という不思議な感覚が、とっても怖い。上手く言い表せませんが、単純に音で驚かすのではなく、人のトラウマを覗き込んだような恐怖こそ、「シャイニング」最大の恐怖演出だと思うんです。言わずもがな、その恐怖はキューブリックの抜群のセンスあってこそ。恐怖を、カルト的な”わかる人はわかる”ホラーに昇華させた、まさに金字塔のような作品。

 

 

 

 

 

 

センス

そんな抜群のセンスを秘めていた前作から約40年。

制作陣の意向、原作者の意向が折り重なり、さらに数多くの映画ファンを虜にした作品の続編という、史上最大級に難しい続編だったと思う。しかし本作は前作とはがらりとジャンルを変更し、また新しいセンスを導入することでこの難題に立ち向かっている。

何より良かったのは、本作の登場人物。ダニーとアブラは勿論、本作の肝となる”シャイニングを喰う者”であるローズ・ザ・ハットと彼女に仕える従者たち。中でもスネークバイト・アンディは極めつけに可愛く、キュートな恐怖を演出している。でも特に良かったのはやっぱりローズ・ザ・ハット。前半で謎の人物として登場する彼女の独特の世界観に、観客はどっぷりハマってしまう。彼女は”不思議”な存在でもあり、同時に「シャイニング」を知らない素人でもある。本作で追加された要素にとっては大きくパワーを発揮し、前作から引き継いだ要素ではされるがまま。彼女のこの両面性が、全く別ジャンルとなった前作と本作の溝を埋めてくれている。

 

 

 

 

霊能力者バトルロワイヤル

本作の大部分を占めるのは、そんなローズ・ザ・ハット率いる一味と、ダニー&アブラの攻防。まさに”シャイニング”の見せ合いになった本作の中でも、最も良かったのが中盤の森での銃撃シーン。ここ、もはや完全にホラー的面白さは皆無に近いんだけど、霊能力によるホームアローンのようなロジック的面白さ抜群の、一歩間違えばコメディにさえ見えてしまいそうなジャンル違いの面白さ全開のシーンでした。ただ賛否は別れそうだけど…w

本作が霊能力バトルモノとして面白かったのは、アブラやローズ・ザ・ハット、さらにスネークバイト・アンディやダニーにも、それぞれ力の強弱と能力に個性があったからだと思う。彼らの霊能力の優劣は、気合いではどうにも覆らないから面白い。アブラはめちゃくちゃ強いけど、察知能力の高いローズには見つかりやすかったり、スネークバイトの能力は一般人には効きやすいけどダニーのような能力の高い人には効きが浅かったり。この優劣が、能力バトルというなんでもありな設定にルールを齎しているから面白く見ることが出来たんだと思います。

 

 

 

 

 

オーバールックホテル

ただ、それだけだと「シャイニング」の続編とはいえない。でも前作ほどのホラーを演出することは正直出来ない。そんな中で、この映画が選んだのは前作を知っているからこその恐怖を演出すること。オーバールックホテルが特徴的ですが、ダニーがあのホテルに着いて中を探索するシーンは、実はほとんど何も起こらないんですよね。でも、あの頃の記憶が蘇って最高に怖いシーンになっている。この”あの頃の恐怖”を蘇らせるホラー演出は、続編としてベターながら前作が金字塔のように崇高になってしまっている状況で、この選択は大正解だと思うんです。

オーバールックホテルという建物が出てくるだけで怖い。この方程式を上手く活用したホラー演出だし、これは「シャイニング」の続編にしかできない奥の手でした。

 

 

 

 

続編の在り方

 これは有名な話ですが、原作者スティーブンキングの意向がかなり加わった結果だとは思うんです。作り手が大きく変わって、さらに前作を納得していない感さえある作り方になっている。一見すると続編としてやってはいけないように思えるこの要素こそ、本作が「シャイニング」という金字塔の続編と成り得た理由だと思う。

続編には大きく2パターンあると思うんです。これは、例えばスターウォーズだとわかりやすいんですが、ep7は過去作を踏まえた続編になっていて、ep8は全く異なる続編になってる。続編には、前作と連なるパターンと前作と異なるパターンがあって、その中で本作はキューブリックとスティーブンキングの意向がぶつかり合うことで限りなく”異なる”パターンにはなっているけど、しっかり連なってもいるという、続編として最も理想的な方向で作られている。同じ過ぎず、違い過ぎないからこそ本作は、ちゃんと「シャイニング」の続きとして楽しめた。

 

 

 

 

最後に

 前作があまりに有名過ぎるため、どうしても賛否は別れる作品だとは思います。だけど、この針の穴通すような絶妙なバランスを貫き、前作と競合しない続編になっている、というだけでも見る価値のある作品だと思いました。

是非、映画館で恐怖の再来を楽しんでください!